月別アーカイブ: 2016年6月

ダディ 世界へ挑む日本人ワシントンD.Cへの道 4

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写真提供:玲子さん
(写真掲載については、代理許可を含め写っているすべての方の了承を得て掲載しています)

 

尊敬するスピーカーもいっぱいいます(笑)

 

例えば、Nancy Duarteとか、Mark Brownとか、Kwong Yue Yangとかね。
でも、たぶん、私に最も影響を与えたのは、もっと身近な人ではないかと思います。
お父さんとか、小学校の校長先生とか。。
今回は、そんな身近な人の中で、自分のスピーチに最も大きな影響を与えた人のことを書いてみました。
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「で、結局何が言いたかったんだ?」

講壇に立った大きな男は、にやりと笑ってそう言った。

 

この日、私はCCマニュアル3本目のスピーチを終えて、この人の論評を待っていた。

辞書で英単語を調べて、ネットの翻訳機能を使って。

英語スピーチ原稿1枚書き終えるのに普通に2か月かかった。

やっと仕上がったA4 用紙1枚の大作。

それを私はこの日、講壇で堂々と完全朗読した。

 

トーストマスターズに入会してまだ半年くらいだった私には、そもそも「スピーチ」が何なのかがよくわからなかった。書き文章でスピーチを書くということも、書いたものをただひたすら7分読む、ということも、悪いなんてちっとも思ってなかった。スピーチにメッセージが必要だなんて、考えたこともなかった。

それでも今までの2回は褒められてきた。

きっと今回も褒めてもらえる。

 

ところが、今回の論評者は違った。

講壇に立つなり私を見て、大きな声でこう言った。

「で、君は結局何が言いたかったんだ?僕らに何を伝えたかった?何を感じてほしかった?

それが伝わってこないスピーチはスピーチとは言わない。」

 

「。。。」

クエスチョンマークが100個くらい浮かんだ。

教室が凍ったみたいになった。

そこから3分間、彼は一度も私を褒めなかった。

 

「何も伝わってこなかった。

それは、君が朗読したからじゃない。

そもそも、伝えたいことが何なのか、君自身がわかってないからだ。」

 

彼はその日、スピーチにはメッセージが必要だということを教えてくれた。

ストーリーの中にある「感動」を掘り下げていくと、必ずそこに「理由」が存在する、それが君のメッセージの「種」なんだと。

それをとにかく掘り下げて、自分のメッセージを探すんだと。

 

散々怒られてあからさまにめげた私に、彼は最後にこう言った。

「書き直してもう一度やってみなさい。

何度でも見てあげるから。」

 

この言葉にグッと来たのは、私だけではなかったと思う。

自分の論評の責任さえ取ろうとするその態度に、彼の真剣さを感じた。

人前で話すということは、発した言葉の責任が問われるべきことである。

 

「この人に褒められるスピーチを書きたい」

 

この大きな声の論評者こそ、私が最も信頼を置くスピーカーの1人、ラスカイル・ハウザーだ。

私にとっては、まさに、スピーチのダディだ。

彼の言葉には鋭い理知がある。

そしていつも、深い愛がある。

 

あの衝撃の夜から3年間、彼は、私のほぼすべてのスピーチを見てきた。

そして今回も。

 

ディストリクトが終わって2週間後、私はやっぱり彼に原稿を見せることにした。

今度こそ、褒めてもらいたかった。

ところが。。。

 

彼はそんなに時間もかけずに原稿を読み、

そんなに深く考えた様子もなく、

顔を上げるとこう言った。

「成長したね。腹立たしいほど。」

 

ん??喜ぶところか?

「ありがとう」って言いかけた私の口より早く、次の言葉が来た。

 

「でも、結局何が言いたかったんだい?」

 

ん??

クエスチョンマークが100個くらい頭に浮かんだ。

どう読んでもメッセージはあるでしょ!?

 

あからさまに腑に落ちない顔をした私に、彼はひるまず続けた。

「メッセージは明確にある。

ただ、もっと深くなる。もう一度掘り下げてみなさい。

セミファイナルまであと2か月ある。

とにかくメッセージを掘り下げて掘り下げて。。。

もう一度向き合ってみなさい。」

 

そして最後に、にやりと笑ってこう言った。

「何度でも見てあげるから。」

 

 

— 次回へ続きます。

 

次回予告 「玲子さん応援メッセージスケッチブック、東北へ旅に出てます」

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<表参道バイリンガル180回特別例会のお知らせ Special Meeting Announcement>

District 76代表そして日本代表として、8月に行われるワシントン国際大会に出場する、表参道バイリンガルトーストマスターズクラブのメンバー増井 玲子さんの壮行会を兼ねた壮行例会を開催します。他のトーストマスターズクラブのメンバーも参加可能です。皆様から増井さんへの熱い応援をお待ちしております!

The winner of the International Speech Contest 2016 in Japan, TM Reiko Masui from Omotesando Bilingual Toastmasters Club is going to Washington D.C. as a representative of Japan. Her send off party will be held by Omotesando Bilingual Toastmasters Club. Join us to support Reiko!

<例会詳細 Details>

・日時/Date:2016年7月30日(土)17時~20時 2016 July 30(SAT) 17:00PM~20:00PM

・料金/Fee:5,000yen

・場所/Place:Green Lounge Shibuya

・地図/Map:https://plus.google.com/104619190266711739432/

・お問い合わせ/Inquiry:http://omotesando-tmc.org/wp/contact/
トーストマスターズクラブ会員のみ、壮行例会の参加申込可能です。参加ご希望の方は、以下のフォームに必要情報を入力、送信をお願い致します。申込期限は2016年7月22日金曜日23:59となります。Please note that only member of Toastmaster Club can apply for the send off party. Please fill out the form below and send us. The closing date is at 23:59 on Friday 22th July 2016.

▼お申し込みはこちらからどうぞ ↓ お申込みフォーム Apply Form
http://goo.gl/forms/oP9FhsLOwg8Q8sDv1

 

 

 

 

表参道バイリンガル 元会長

増井 玲子さん 応援団長

くどう みきこ


Go Reiko ! 玲子さんとともに楽しもう「わたしたちの旅」 世界へ挑む日本人3

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2016年5月28日  まーやんは日本を制した。
そして2016年5月29日 玲子さんは日本を制し、「世界へ挑む日本人」 となった。
(写真提供:岩佐 和哉さん/ 表参道バイリンガルトーストマスターズ)

 

 

前回本人が紹介した「Blackbird」の他に、あの時のパーティーで玲子さんが歌ったのは「Take the A train」だった。

 

ジャズナンバーとしてはあまりにも有名な一曲。

その曲に乗せられた歌詞もとてもシンプルなものだ。

「さあ、A列車に乗ろう。ハーレムのシュガーヒルに行くんだ・・・乗り遅れたら大変だ。ほら、列車が来るぞ。聞こえるだろう?レールが軋む音が」

 

実は、こんなシンプルな歌詞にこそジャズの真髄があるのだという。なけなしの金をはたいてA列車に乗り、ハーレムに向かう。ハーレムにあるのはアポロシアター。ジャズの聖地とも言えるホールだ。アフリカン・アメリカンたちはたとえその後のお金がなくなっても、A列車に乗っては、アポロシアターにてその日奏でられるジャズナンバーに陶酔したのである。

 

まさに「Now is the time」。それは今その時に訪れるものに全てをかける、ジャズの根底に流れる精神そのものだ。

 

スピーチコンテストを勝ち抜くことは、言うまでもなく容易ではない。自らが作り上げたスクリプトを信じること、無数のフィードバックから、自分に有益なものを吸収すること、そして、気がすむまで練習を繰り返すこと・・・たくさんのことを事前にやり尽くさねばならない。

 

しかし一方で、どんなに練習を積んでも、コンテスト本番の空気を完璧に想像することなどできはしない。だからこそ、コンテストに臨むスピーカー達には「今」をとことん楽しむ度胸が求められる。

 

その日、その舞台でしかありえない聴衆のリアクション。そしてその刹那もたらされるスピーチのアイデア。とめどなく溢れるアドレナリンをギリギリの理性でコントロールし、あらかじめ用意したスクリプトを破綻させないように、それでいて、その瞬間にしか生まれない声で、表情で、聴衆に投げかける。

 

ジャズを愛する玲子さんにとってそれは、何よりも楽しい時間だっただろう。苦しい練習や時として浴びせられる心ないフィードバックや・・・そう言った辛さを乗り越えたからこそ享受できる「今」を、彼女はきっと全身で味わったに違いない。

 

「聞こえるだろう?レールが軋む音が」

玲子さんは、舞台上で何を見、何を聞いたのだろう。それは本人にしかわからないことだ。世界大会が行われるワシントンDCでもきっと、ステージ上で何かが玲子さんの目前に舞い降りるに違いない。

 

それは天使なのか、悪魔なのか・・・それとも、やはりA列車なのか。

なけなしの勇気をはたいて、玲子さんはシュガーヒルの・・・いや、ワシントンDCのてっぺんを目指す。

 

 

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喉から手が出るほど行きたい、今年のワシントンD.C 国際大会。
すぐにでも予約して、玲子さんが現地で頑張る姿を見たい。
ワシントンD.Cバイリンガルトーストマスターズに友達もいるのに—

しかし— 今年、私は行くことができないのです。
本当に悔しい。
だから、今年は「玲子さんのために、日本一やさしい応援団長になる」
ことを決めました。

 

ということで・・今年は

「もうひとつの小さな小さな旅」を始めます。

 

用意した、モレスキンの赤いスケッチブック。

今週からできる限り色々なクラブを訪問し、玲子さんのために「たくさんの応援メッセージ」を集めます。

目標は、「1000通のメッセージを集める」こと。

現在15通の応援メッセージが集まっていますので、あと985通です。

 

8月、玲子さんがアメリカへ旅立たれる前にこのスケッチブックを渡します。

 

初めて「世界へ挑む日本人」玲子さんにとって一番のサプリメントとなるのは、「たくさんの人たちからの応援メッセージ」。

あのセミファイナルの大舞台で、足がすくまないように

玲子さんの緊張を少しでも和らげ、ステージを楽しんでもらうためには、「皆さんからのたくさんの応援メッセージ」がいちばんエネルギーになるのです。

 

そして– 是非皆さんもこの小さな旅を一緒に楽しみませんか?

 

出来る限り色々なクラブへ足を運び、「世界へ挑む日本人」玲子さんへの応援メッセージをたくさん頂きたく、お邪魔いたします。

 

& 小さな旅の第1号、第2号は

6/24 (金) Pioneer Toastmasters

6/25 (土)T4 – Tokyo Table Topic Toastmasters

 

からスタートして行きます。

 

玲子さんの応援メッセージを1000通集めてワシントンD.Cへ届けよう!

そんな、一見無謀なプロジェクトを理解し支えてくださる各クラブとメンバーの皆さんに、心から感謝とお礼を申し上げます。

 

同時にー全国のTMCの皆さんから、応援メッセージを受け付けています。

 

Go Reiko !!

 

 

「世界へ挑む日本人の挑戦」は、たったひとりだけのものや、特定の人たちだけのモノではありません。

 

それをサポートする私たち– チャンピオンを想う気持ち、そのためのアクション全てが「世界へ貢献する道」につながるのです。

 

例え、居場所やカタチが違っても

思いは一緒です。

 

玲子さん、頑張って。

 

日本中のトーストマスターたちが、

 

そして、世界中のすべての日本人が、玲子さんを応援しています。

 

 

 

—次回へ続きます。

「世界へ挑む日本人」がインスパイアされる人って?

 

表参道バイリンガル 会長/ 増井 玲子さん 応援団長

くどう みきこ

 

 


船上のBlackbird 世界へ挑む日本人2016 ワシントンD.Cへの道2

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2015年7月5日の田村 直樹さんの壮行会でコンビを組んだ玲子さんとまーやん。
その1年後、日英スピーチコンテスト全国大会でそれぞれがチャンピオンになるとは誰が予想しただろうか。
(写真提供 竹内 康夫さん by 飯田橋 /響 /Cosmos トーストマスターズクラブ)

 

Blackbird—

Beatlesの、大変有名な曲である。

そして昨年の夏、ラスベガスで消えた夜にひとりで泣いていた玲子さんのHeart of heartsを表現していた歌でもある。

今日のブログは、Jazz Vocalist として玲子さんから頂いたメッセージを、そのままご紹介します。

 

 

好きな曲はたくさんあります。       ← クリックすると曲が流れます

でも、今ならBlackbirdかなぁ。

Blackbirdは1968年に発表されたビートルズの名曲で人種差別に屈することのなかったある女性のニュースがもとになって書かれた曲だと、何かで読んだことがあります。

私がこの曲を初めて演奏したのは、2015年7月5日、Jazz Live でした。

 

以下、思い出すままに書きます。

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2015年7月5日

開店直後の楽器屋さんへ行く。

予約しておいたアンプを借り、道路脇まで引きずっていく。キャスターがついてはいるものの、かなり重い。

肩から下げたカバンには、新調したお気に入りのマイクが入っていた。

ふと見上げると、彼がサックスをかかえて立っていた。

本当は深夜まで練習して、ろくに寝ていないだろうに、そんなことはほとんど感じさせない。

2人でタクシーに乗り込み、お台場の船着き所へ急ぐ。

 

この日は日本代表の壮行会、船上パーティーだった。

彼と私は船上Jazz liveを仰せつかった。

チャンピオンへの精一杯の声援と、チャンピオンになれなかった自分たちへの精一杯の慰めと。

それぞれの思いと重い楽器を抱えて、私たちは船に乗り込んだ。。

 

彼は「まーやん」と呼ばれていた。

彼のことはほとんど知らなかった。

サックスを聞くまで。

前年秋の全国大会余興で吹いたスタンド・バイ・ミーのテーマ。

空気を割っていくような迫力。なのに、繊細な息遣いで絶妙な抑揚をつけてくる。

すごい、この人!!

 

そんなまーやんとDuoを仰せつかった。

6月のある日曜日、八重洲のプロントで初打ち合わせ、っていうか、ほぼ初顔合わせ。

あの時のあの人とDuo!?

想像するだけで緊張した。

 

打ち合わせは意外にもサクっと1時間ほどで済んだ。

適当な曲を3曲選び、その場で音を確認しながらKeyまで決めきった!

 

。。。はずだった。

 

家に帰ってみると。。。

数日過ごしてみると。。。

やはり、どうしてもあきらめられない曲が出てきた。

何度も何度も、あの一節が頭をよぎる。

 

どうしてもこの曲をやりたい。

 

そのたった一節のために、「この曲に変えたい」 ってまーやんに言ったら、怒られないだろうか。。。

今まで一度も歌ったことのない、楽譜もない。 Keyもわからない曲だ。

でも、思い切って彼にメールしてみる。

だめかなぁ。。

すると彼は即座にこう返してきた。

「わかった、やってみようよ。」

 

「やりたいって気持ちがすごく伝わってくる。

多分、玲子さんが今やるべき曲なんだろうね。」

この人は時々妙なことを言い当ててしまう。

 

その曲というのが、Blackbird。

人種差別に屈さなかったある女性がモデルになっていると言われている。

 

「ゴォー」という船のエンジン音にまみれながら、静かにこの曲を始めた。

目の前には、日本代表を応援しようと集まったたくさんのトーストマスターズの人たち。

本当は、彼らだってみんな、チャンピオン目指して闘ってきた人たちなのだろう。

そして…その旅のどこかで敗北を味わってきたのだろう。

私たちと同じだ。

 

トーストマスターズのコンテストでは、1位を取った人間だけが次のコンテストに進める。

2位でも3位でも、次のステージには上がれない。

参戦した誰もが、その挑戦ーそしてどこかで悔しさを味わうことになる。

 

負けても屈さず、それでも頭をもたげて来季を待ち望むたくさんのトーストマスターたちの姿が、Blackbirdの歌詞に絶妙にリンクしてしまう

 

「負けたんじゃない。時を待っているだけだ」

 

っていう静かな決意を、まーやんのサックスは優しい音にしてくれる。

 

Blackbird singing in the dead of night.

Take these broken wings and learn to fly.

All your life.

You were only waiting for the moment to arise.

 

あれから約1年。

まーやんと私はほとんど連絡を取ってなかった。

彼がどんな風に過ごしてきたのか、私はほとんど知らなかった。

そんなある日、まーやんが全国大会へ駒を進めたことを聞いた。

とうとうきたか。

 

あの日のBlackbirdを思い出した。

「負けたんじゃない。時を待っているだけ。」

 

2016年5月28日、まーやんはとうとう、日本語コンテストで日本チャンピオンになった。

その翌日、私は英語コンテストでまーやんに続いた。奇跡だと思った。

 

7月のあの日、私たちは船上で鳴く2羽の Blackbird だった。

傷ついた羽根を取って飛び方を学ぼうとしながら。

負けたんじゃない。時を待っているんだって強がりながら。

 

あの日サックスを握っていた両手には、大きなトロフィーが渡された。

そのトロフィーには、金色の大きな鳥がとまっていた。

 

すべてのBlackbirdには、必ず飛べる日がくる。

 

その時は、必ずやって来る。

 

You are only waiting for the moment to arise. 

 

 

2016年、District 76代表そして日本代表として、世界へ挑む日本人 増井 玲子さん。

 

そして、同じくDistrict 76代表としてもうひとりのチャンピオンとなったまーやん。

 

おめでとうございます。

 

そして、素敵なドラマをありがとう。

 

— 次回へ続きます。

 

次回予告—今年は「1冊のスケッチブック」からスタートします。

玲子さんはシュガーヒルの・・・いや、ワシントンDCのてっぺんを目指す。

「Blackbird」の裏話とこれから始まる「応援メッセージ」の旅

 

表参道バイリンガル 会長/ 増井 玲子さん 応援団長

くどう みきこ


ラスベガスで消えた夜 世界へ挑む日本人2016 ワシントンD.Cへの道

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全国大会前夜、大阪国際交流センターにて。
表参道バイリンガルメンバーからのメッセージを渡した時の玲子さんの笑みが印象的でした。
※写真提供/田中 真奈さん(Pioneer TMC)

 

2015年8月13日、ラスベガス。

トーストマスターズインターナショナルセミファイナル終了後、まだ会場はざわついていた。

 

日本人初のセミファイナル入賞となった田村 直樹さんを囲み、3度目の挑戦にして「新たな歴史」が生まれた瞬間。

 

砂漠のど真ん中にあるラスベガスの厳しい暑さと同時に最高の歓喜となり、ものすごい熱気と情熱に包まれていた。

 

時計は夜の10時を回っていた。

 

予選で2位となった田村さんの祝賀会へと足を向けるメンバーの中に、玲子さんの姿はなかった。

 

「あれ?増井さんは?」

 

玲子さんをよく知っている、Iさんが言った。

 

「なんか、具合あまりよくないみたいです。着いたばかりで相当疲れているみたいです」

 

私は言った。

 

「具合が悪い?」

 

「そっとしておいた方がいいと思います。明日はよくなると思いますよ」

 

「ふーん…」

 

こう伝えておけば、誰も玲子さんがいなくても違和感がないと思ったーー
その事だけは今もはっきりと覚えている。
祝賀会が終わり部屋に戻ると、玲子さんは部屋を真っ暗にして横になっていた。

 

枕元には、白紙のノートとペンが置かれていた。

 

「祝賀会でられなくてごめん。疲れちゃった。でも、スピーチの案考えてたんだ」

 

私と玲子さんは、ラスベガスで同室だった。

 

とはいえ、お互いの行動に干渉しない。食事を取るのも別々。

 

気は合うものの、ある程度の距離感をいつもキープしてお互いを尊重している—

 

玲子さんはそんなトーストマスターズの仲間であり、私の最初のメンターでもあった。

 

セミファイナル終了後に姿を消したその夜、玲子さんは泣いていた。

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昨年の国際大会での玲子さんと私。
れいこさんは、歩いているだけで色々な人から声をかけられ、玲子さんも流暢な英語で返していく。
その姿はとても魅力的でスマートで、同じ女性として私は本当に羨ましい限りである。

 

何で泣いていたのかは、よくわからない。
そして、「お腹がすいた」と言った。

 

私は祝賀会で食べてきたけど、あぁ玲子さん、何も食べなかったんだね。

 

インスタントラーメン作ってあげようか?

 

鍋もあるよ。夜遅いけど、ちゃんと食べてから寝なよ。明日もいっぱいワークショップもあるから。

 

東急ハンズで買ってきた携帯鍋は火が通るまでなかなか時間がかかったが、具のないシンプルなラーメンを玲子さんは美味しそうに食べていた。

 

 

思えば今年の4月まで、彼女もコンテストに出ていた。

 

負けたことがよっぽど悔しかったのか、それで何かにショックを受けたのか、なにがあったのか。

 

少なくとも、私から見えていたのは

 

そんな自分に、「玲子さん自身が傷ついている」。

 

「負けて、泣いて、傷つくほどの悔しさ」 って何なんだろう?

 

 

本当に実力のある人のみが抱え込めるひとつの高い壁であり、私にはそんな玲子さんを慰める最適な言葉を見つける事ができなかった。

 

ただー玲子さんも、いつか世界のステージに立つ事を心のどこかで望んでいる。

 

 

そのためには、もっとスピーチができる場所が玲子さんには必要なんじゃないかな?

 

 

その頃の玲子さんは、仕事の都合で長年所属していたクラブに通えなくなり、トーストマスターズからどんどん離れて行っていた。

 

表参道バイリンガルに来ない?いつでもスピーチできるよ。

 

 

会員が20人いくかいかないかの小さなクラブだけど、大きいクラブみたいにスピーチするのに数カ月待たなきゃいけない、なんてこともないし。

 

また一緒に頑張ろうよ、そしてアメリカ大会のステージ目指そうよ。そしたら玲子さんのブログ書くから。

 

わたしは、そう言うのが精いっぱいだった。
部屋中に漂い始めた日本のインスタントラーメンの香りに包まれ、部活後の一息のような平和な時間が流れていった。

1年後、本当に「世界へ挑む」日本人となってしまうとは、当時の私たちは知る由もなかったのだが・・・

 

 

— 次回へ続きます。

 

「世界へ挑む日本人2016 ワシントンDCへの道2」  船上のBlackbird–
時は必ず来る。

 

 

表参道バイリンガルトーストマスターズ 会長
& 増井 玲子さん 応援実行委員会 会長

 

くどう みきこ